私を見て欲しい。
出来たら私を愛して欲しい。


側にいればいるだけ、

彼を想えば想うだけ、


心は自分から遠ざかっていく気がした。



第2話




もしかしたら自分は少しずつ今を生き始めているかもしれない、そう前向きに感じた矢先の事だった。


弥生・・・?

どうして・・・・・これは・・・夢?


弥生が黙ってこちらを見つめていた。


弥生?どうしたの?オレに会いに来たの?



あ・・・・・やめろ・・・・・


突然、今まで黙ってたたずんでいた弥生にクナイが刺さった。
血をふく弥生・・・


やめろ!なぜ今さらあの日の事なんか!!

カカシが見ていたのは、目の前で弥生が敵に殺された時の映像だった。


い、いやだ。

もう、やめてくれ!!!!


「う、ぁああああ!!弥生!!!!!!」

がばっ!!とベッドから起きたカカシは、暑くもないのに全身が汗ばんでいた。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

運動したわけでもないのに、息が切れている。



「カカシさん!!」
声がする方を見ると、心配そうな表情をしたがいた。


「あ、・・・・オレ・・・?」


「カカシさんのうなされてる声がしたから慌ててきたんですけど・・・何かあったんですか。」



オレの心は・・・・弥生に捧げたはずだ。


「大丈夫。なんでもなーいよ。」

はまだ心配そうな表情だったが、やんわりと部屋に返した。




部屋に戻ったは、いつまでたっても寝つけなかった。
目を閉じると、瞼の裏には先ほどのカカシが必死に弥生の名を呼ぶ姿が延々と繰り返される。


私は・・・それでもいいって言ったじゃない。
カカシさんの側にいられるなら・・・。



たとえどれだけカカシが弥生を思っていようとも。



「ふ、・・・・」
は溢れ出す涙を止めることが出来ない。


どれだけ固く決意をしても、自分を見ていないカカシの態度を目の当たりにすると胸が苦しくなった。

涙と一緒に、この気持ちも自分の中から流れ出てしまえばどれだけラクになることか。


離れてしまえばこの苦しみは軽くなる。
想いが伝わる前、1人カカシを想っていた日々に戻りたい。


その晩は声を殺して泣いた。



やっぱり、もう限界なのかもしれない。
瞳に映るだけで、初めは同じ空間にいられるだけで満足していた心が
どんどん欲深くなっていく、

想うだけでは足りなくなっていく、自分。


私を見てほしい。
出来れば愛してほしい。

醜いココロ。
カカシさんの心が欲しい。


この胸の苦しさの理由の半分は自分を見ていないカカシの所為にしていたが、
半分はこの現実から逃げたいだけかもしれないとも思う。




自分が側にいて、カカシが自分と弥生を重ねれば重ねるほど、

カカシの心が過去に向かっていく気がした。






「おかえりなさい、カカシさん。」


―――おかえり、カカシ。


確かに目の前にいるのはのはずなのに、
なぜだか弥生の姿が目に浮かぶ。


「カカシさん?」


「あ、いや。ただいまサン。」

今のオレはどんな顔をしているのだろう。


「ご飯、出来てますよ。あ、先にお風呂にします?」

「お風呂にしようかな。」

「じゃあ、準備してきますね。」

そういい残しは風呂場に準備をしに言った。


オレ、なにやってるんだろ。



風呂に入り少し頭を冷やしたはずだった。


なのに、
なのにどうにも別人だと、認識しているはずのの姿が先ほどからやたらと弥生の姿に映る。


―――この煮つけおいしいでしょ?ちょっと時間かけてみたのよー。

「・・・したんですよ。ってカカシさん?」

「え?あ、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃったみたい。」

がしきりに話を振ってくれるが、耳に中々はいってこなかった。

「お疲れみたいですね。」

オレを気遣うサンのキモチが痛い。


その日から少しづつ、
に向かい始めた気持ちがまた離れていくのをカカシは感じていた。






「カカシさん。」
顔を見たのは久しぶりだった。
別に避けていた訳ではない。

お互い任務がたてこんでいたため、会う暇がなかったのだ。


「久しぶり。」

少し疲れが残る表情でカカシは微笑んだ。



そんな彼にこんな話をするのは、かえっていいのかもしれない。
こんな関係終わらせよう。



「あの・・・・話があるんです。」

「なーに?」



「・・・・・」

サン?」





「もう・・・・終わりにしましょう。」

「・・・それってオレと別れたいってこと?」

は黙って頷いた。



「わかったよ。今まで・・・・ありがとう。」


そう言い残してあっさりとカカシさんは部屋から出ていった。
私は最後まで顔をあげることが出来なかった。

顔をみたらきっと泣いてしまう、行かないで欲しいとすがってしまう。


「うぅ・・・・ふ、・・・」


これでよかったんだ。

よかったはずなのに、こんなにもせつないのはどうしてだろう。




カカシさん、さようなら。




「ふぅ。」
カカシは自分の家に帰ると、一息ついた。


遅かれ早かれこうなる気はしていた。
いつまでたっても触れる事すら出来ずに、過去の女と重ねている自分など愛想をつかして当然だ。



もう誰も愛さないと決めた。


なのにどうしてだろう。
こんなにせつない気持ちになるのは・・・・




と別れてからしばらくしたある日、上忍待機所に向かう途中で紅に捕まった。


「カカシ。」

「おはよ、紅。」



「アンタと別れたんだって?」

「まーね、これで紅もほっとひと安心でしょ。かわいい後輩についてた悪い虫がいなくなって。」



「・・・バカ!!!アンタってほんっとバカ!!」

「は?」


「弥生の気持ちも、の気持ちもどうしてわかんないのよ!これじゃ弥生も死んでも死にきれないわ。
 だって、これ以上アンタを苦しめたくないから・・・って。」



「紅、言ってる意味ぜーんぜんわかんないんだけど。」
またしても、カカシを取り巻く空気の温度が明らかに下がった。


「アンタなんかそうやって一生逃げてればいいわ!弥生のせいにして、
 今回だってそうやっての気持ち平気で踏みにじって。アンタが誰かを幸せにする事なんて出来っこなかったのよ。
 だから反対したのに・・・。弥生の時も、の時も。」


「紅・・・・。」


「とにかく、にはもう近づくのも許さないから」


「わかってるよ。・・・・彼女だってそう願ってるはずだ。」

きっ、とカカシを睨み付けて紅は去って行った。






「よォ、カカシ。」

「アスマ、おはよ。」

カカシはちらっとアスマを見てすぐに、手元のイチャイチャパラダイスに目線を戻した。

そんなカカシを気にもとめず、アスマはどかっとソファーの隣に腰かける。



「お前、女と付き合い出したんだって?」

「まあね、もう別れたけど」

「はあ?お前あれからやっと女出来たかと思ったらもう別れたのかよ?」


「うるさいね。アスマには関係ないでしょ。っていうか、お前ら人の事気にしてる暇あったら自分たちの心配したら?」

「あ?どういう意味だよ。」



「オレ紅にも責められてんの。」



「マジかよ。そりゃーお前おっかねぇな。」
アスマは他人事だというように、笑っていた。


「でもよーなんで別れたんだ?つーかそもそも付き合うきっかけはなんだったんだよ?」


「別に。好きだって言われていいなと思ったからだよ。別れたのはフラレたから。」

「お前、めんどくせーからってはしょりすぎなんだよ。」

「えーヤダよ。紅に聞けば?」


「そーかよ。」



2人の間には沈黙が残った。



「なあ、カカシ。」

「なに。」


「俺ら忍は、明日生きてるかどうかの保障もねぇ。悔いのないように生きろよ。」

じゃあな、と言ってアスマは去っていった。


・・・・なんだったんだよ。
いつ死ぬかわからないことくらい、オレだってわかってる・・・・。




サン・・・・。



なぜだかに会いたい自分がいることを、カカシは気づかずにいた。




心の隅でに会いたいような気がしていたがそれも二度と叶わないことはわかっていた。
そんなくカカシにちょうどよく中長期の任務が舞い込んだ。
期間は1ヶ月。

五代目火影である、綱手様の元に招集されたのはオレと他に上忍3名。


「以上が今回のお前たちの任務だ。頼んだぞ。」

「「「「はい。」」」」


こうして火影直々に任務を言い渡すのも、内容が内容だったというのもあるし期間が他の任務に比べて少し長いためでもあった。


今回の任務内容は、簡単に言えば護衛。
ある大名たちが2週間後に密会を行う。
その会場及び大名たちの安全の確保がメインであるがそれだけではSランクにする必要もない。

どうやら、その大名たちを狙っているものがいるらしいとの情報が舞いこんだ。
しかもその輩は方々から集められた抜け忍たちが結成したテロリスト集団である可能性が高いらしく、その中に木の葉の抜け忍もいるかもしれないとのことで
追い忍の出動要請が必要かどうかの判断を下すためにも、護衛を兼ねて情報を一度洗いなおす必要があるとのことだ。
そのため、調査に2週間。密会後も完全に安全が確認されるまで護衛を行ったほうがよいというのが火影の判断で期間は1ヶ月。

そんな任務を確実にこなすため、上忍の中でもさらに手練れの者だち4人が選抜され任務にあたることになったというわけだ。


フォーマンセルの隊長はカカシ。

密会の場所は木の葉の里から少し離れているため、各自準備を整えた後
10分後に門の 前に集合ということになった。


カカシは隊員たちに指示をした後、自宅に向かい準備をほどなく終え
慰霊碑に立ち寄ると見知った顔がそこにいた。



サン。



あれだけ会いたいと思っていたはずなのに、今はどうしても声をかけられずにいる。



なにをしてるんだ?



久々に見た彼女は、少し痩せたような気がした。
は慰霊碑に花を添え手を合わせて祈っていた。
その後慰霊碑に刻まれている名を指でなぞっている。


両親に・・・かな。



無言で彼女を見送った後、先ほどまでが立っていた場所に自分も立った。
手を合わせそこに刻まれたかけがえのない存在たちにほんのわずか想いをはせた。


ふと、慰霊碑のほうに目をむけるとわずかだが指で触れた跡が残っているのに気がついた。



あ、・・・・



時間がたてば消えてしまうであろうそれ。
つまり、その跡を残したのは先ほどまでここにいたしかいないことになる。




どうして、


どうして弥生の名前を・・・・?



まぎれもない、跡が残っていたのは彼女の両親の名前ではなく弥生の名前の部分であり、
彼女が何を思って弥生の名前に触れたのかは、今となってはカカシには知りようもない事であった。



いつまでもぐずぐずとはしていられない。
これから自分には任務と隊員である仲間たちが待っているのだから。


「いってくるね。」

カカシは誰にともなくそう言い残しその場を去った。





調査の方は順調に進んでいた。
追い忍を集めたであろうテロリスト集団は、それぞれの質はそれなりであったが人数自体は予想をはるかに下回り
たったの3人であった。

そのうち木の葉の抜け忍は1人のみ。他2名はどちらも音隠れの忍である。
知りえた事実を火影に報告すると、
『追い忍は出動しない、そのかわり木の葉の抜け忍のみ死体を里まで運ぶこと。』という達しであった。

こちらの人数のほうが多いことから、そこまで難しくないかと思われたが
追加で来た命令がカカシたちの頭を悩ませた。

『他2名の抜け忍は、多少の手傷はやむを得ないが決して死なせてはならない。』というものだった。


おそらく、音隠れの里との均衡を守るためでそちらはそちらで里を抜けた者の処理をするということであろう。
死体は多くを語りすぎる。
それがわずかな時間であっても、カカシたち木の葉の忍からは出来るだけ遠ざけたいとの判断によるものであると推測した。

抜け忍1人とやりあうのは、簡単なことだがこちらにはさらに大名たちを護衛せねばならず
その際他2名は殺してはならない。

いくら里の手練れたちが集められたとしても、この状況は少し厳しいものがあった。


その状況を察したのか、追い忍を出動しない代わりに応援部隊を1つよこしてくれるとのことであった。
状況の把握や火影を通しての音との交渉を踏まえたため、思ったより対策が後手に回ってしまい
応援部隊がこちらに到着するのは明日の夜明けごろであるとのことだ。
しかし密談は明日に控えていた。


ぎりぎり、か。


そのことを隊員たちに伝え、応援部隊を含めた作戦をかるくシュミレーションした。
1人は木の葉の抜け忍の抹殺、そこに補助として応援部隊の1名がはいる。
1人は応援部隊の2名と大名及び会場の護衛。
カカシともう1人に応援部隊の1名を加えた計3名は抜け忍他2名の身柄の確保にあたる。

そのテロリスト集団に事前にこちらから仕掛けていってもよさそうだったが、
現在の4人だけのメンバーでは大名の護衛を同時にかねるのは難しい。
調査だけならまだしも攻撃面において、隊が分裂するのはできるだけ避けたい。

結局、密談当日に、応援部隊と合流後すべての任務を同時進行で行うしか方法はなさそうである。



大名の護衛を行いつつ、密談相手の大名が現れるまでの間カカシたちは順に休憩をとった。



「カカシさん、応援部隊が到着したようです。」

「はいよ。」

隊員の1人に呼ばれて、応援部隊である4人がいるという部屋に向かった。


「わざわざ悪いねー。」

「いや、かまわん。」

隊長の1人に話しかけたその時だ。



あ、・・・・。



サン。



目の前にいたのは、慰霊碑の前で見かけて以来のであった。


「お久しぶりです、カカシさん。」

「お、2人は顔見知りか?」

「えぇ、隊長。以前少しかかわりがありまして。」

「え、あ。うん、そうなのよーよろしくね。」

「はい。」


なにもない風を装うにカカシもあわせた。
別に以前2人が付き合っていたなどという事は、この場ではもっとも必要ない情報でしかない。


「じゃあ、簡単に今回の任務の作戦を説明するね。」


そう言ってカカシはすばやく、見回りをしている部下2名をのぞく計6名で再度作戦の内容を確認した。



「といわけだから。基本的には抜け忍たちの対処はオレが指揮をとる。んで、」

ちら、ともう1人の隊の隊長である男をカカシは見た。


「護衛の方はオレが指示すればいいってワケだな。」
もう1人の隊長は、腕をくみ神妙に頷いた。

「そーいうこと。元々オレの隊のヤツラは調査でこの辺のこととかターゲットたちに関しては頭に叩き込んでるはずだから。
 その辺の詳しいことはそれぞれの持ち場のヤツに聞いてちょーだい。」

後から来た4人の振り分けも終え、後は時間がくるのを待つのみだ。


「カカシさん。」

それじゃ、今日はよろしく。と言って各自ローテーションを組んで休憩にはいろうとしていた時だ。
は急にカカシの名を呼んだ。


「なに?」

「私を、カカシさんのほうに組んでください。」

は自分の隊の隊長と、カカシの隊の1人とで大名たちの護衛に振り分けられたはずだ。
それを今さらカカシの持ち場である音の抜け忍のほうに組んで欲しい、・・・と。


「それは出来ないね。サンは感知タイプだから、護衛が一番適任だ。それを踏まえての振り分けなのよ。」

「そうだぞ、。なにをいまさら。」

「私は、・・・私。」

それでもなお、はカカシになにか言いたげだった。

「ダメだ。サンには悪いけどこの決定は覆せないよ。」


カカシは久しぶりに出会ってから、この時初めての瞳を見た。
その色は決意にも似た、強い光を放っていたように思う。




この時、誰がああなることを予測できただろう。


わかっていたら、





彼女を、を傷つけずにすんだのに。









さてさて、カカシ先生誕生日夢第2話です。
なんだか雲行きがあやしいですが・・・・。

せっかくのカカシ先生の誕生日なのに、
全然まったくいちゃいちゃしてなくてすみません!!!(汗
どこが、カカシ先生の誕生日やねん、コルァア!!というお怒りはお沈めください。
次で決着がつきます。

次は頑張ってちょいと苦手な戦闘シーンとやらを書いてみようと思います。
で、出来るかしら・・・・。